長重之の仕事について
彼の仕事は1960年代の作品 ポケットによって一つの転機を迎える。従来の油彩中心からオブジェへ移行することによって、彼は新しい表現の地平に踏み出すことになった。
キャンバス地を縫い合わせたポケットについて次のように言う。「私にとって作品ピック・ポケットは、外界と肉体の境界にあって、現在、私が生きている歴史的事実とその背景が刷り込まれている唯一の領域であり、それらを解体するための運動体の領野である」
その作品は、何の変哲も無い大振りのポケットに過ぎないが、長にとっては、その背後にある象徴的な意味こそが重要なのである。ポケットの中には、彼の内面のすべて、仕事、生活、屈折した心理、数々の読書体験、世上に蔓延る多彩な概念装置など、彼が生きた証が乱雑に詰め込まれており、そして、そこはまた彼の隠れ住む場所でもあるのだろう。
長はポケットを基点に、以後、多様な身体的パホーマンスや合板の断片を組み合わせた「平・面・体」などのコンポジションの制作に取り組むなど、その活動範囲を大きく広げ、前衛市場でも高い評価を受けようになる。
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